序文
顧客満足度を探る手法の一つ、CSポートフォリオ分析を紹介します。ポイントは、
・2軸でものごとをみる視点をもつことと、
・複雑な手法=得られるものがより多いということではない
ということを紹介していきます。

顧客満足度の測定方法
顧客満足を探るのに、さまざまな方法が提唱されています。
利用客にどの点が気に入ったのか、項目を挙げていただき、その結果を集計する方法もあります。しかし単純集計では、満足度や重要度を探るには限界が出てきます。
例えば、飲食店の顧客満足度調査で、接客や価格や品揃えなどとともに、仮に清潔度でトイレが汚いという評価スコアが一番悪かったとして、全部を改善すると効率も悪いので、全体の評価から見ても、トイレの清潔度が重要なのかといった個別の視点と全体の視点で見る2軸でものごとを見ることで、より効率的な改善点が見出しやすくなります。
より総合的に評価を探ることができる方法が、CSポートフォリオ分析です。
CSポートフォリオ分析は、各評価項目と、総合指標を使って満足度と重要度の2軸で分析することにより、改善の優先順位を視覚化する分析手法です。
以下のような調査票があります。

以下のような22名分の回答を得ました。

回答項目は、
1が「不満」、2が「やや不満」、3が「普通」、4が「やや満足」、5が「満足」に対応しています。
1つめの軸「満足度」で各変数での特徴を探る
満足度という軸で「品揃え」「品質」「探し易さ」「接客態度」「会計時間」「清潔感」を分析します。
満足度の求め方は、まずCOUNTIF関数を使って単純に各評価を単純集計します。

例)「品揃え」の「1(=不満)」の度数を集計するには、
=COUNTIF(B$2:B$23,$J26)
他のセルもコピーして計算します。
緑のマトリックス部分が計算できたら、「やや満足」と「満足」を足し合わせて「満足合計」を計算します。そして、表が見やすいように、「満足合計」が高い変数から順番に並べ替えます。次に、全体の評価の中で、「満足合計」がどの程度の割合で含まれているかを計算し、「満足度」を測定します。


例えば、「清潔感」の「満足度」は、
=SUM(B39:B40)/SUM(B36:B40)=0.59…
と計算します。
求めた満足度の平均値もAVERAGE関数で計算しておきます。
2つめの軸「重要度」で次回来店により重要な要素を探る
注目するのは、「次回来店」を目的変数に見立てて、「次回来店」とその他の評価項目の関連を見ます。みなさんもアンケートなど自社でとる際、最後に、総合指標となるような、「総合満足度」「次回来店」「購入意向度」などを最後に聞くことです。総合的に知りたい指標と個別の変数との関連性を把握することができますので、アンケートの最後の設問に総合指標を一つ入れることをおすすめします。
相関分析で学習したように、Excelの分析ツールを使うと、複数の変数の相関係数を一括で計算できます。
目的変数である「次回来店」までを含んで相関分析を行います。
[データ]→[データ分析]から相関を選択し、範囲を選択します。
*[データ]タブに[データ分析]が表示されない方は、Excelの[ファイル]→[オプション]→[アドイン]を選択し、一番下の管理[EXCELアドイン]で設定ボタンを押し、「分析ツール」と「分析ツールVBA」を有効にしてください。

相関行列が出力できます。
次回来店とその他の変数の相関係数の平均も求めておきます。

次回来店に強い影響を与えているのは、「品質」>「会計時間」>「接客態度」>…
というのがわかります。
「満足度」と「重要度」を2軸で並べて視覚化してみる
求めた「満足度」と「重要度」を使って散布図で視覚化していきます。

重要度と満足度で散布図を描きます。平均値の青線は、手動で入れています。

CSグラフの見方は以下のようになります。
【A】満足度:高 重要度:高 …… 強み
この店の強みは、「接客態度」と「品揃え」だとわかります。
特にこの2項目は、評価が下がらないよう、引き続き維持して欲しいものです。
【B】満足度:低 重要度:高 …… 優先的改善項目
優先して改善したい項目として、「会計時間」と「品質」であるとわかりました。
「会計時間」は一般に、あまり待たされたくないと感じるお客様は多いので、人員配置や手順の見直しなどにより改善を図りたいものです。
【C】満足度:高 重要度:低 …… 現状維持項目
左上に配置されたのが「清潔感」と「探し易さ」です。
現状を確実に維持しなければ、途端に不満を感じる項目ばかりなので、今後は更に後回しにして良いというものではありません。
【D】満足度:低 重要度:低 …… 次点の改善項目
今回は左下の領域に配置された評価項目はありません。
表の見方のポイントは以下になります。

A:満足度:高 重要度:高
ここに属する項目は自社の強みとして判断し、満足度が下がらないよう、品質/サービスの維持を図りましょう。
B:満足度:低 重要度:高
総合評価または次回の来店により影響を及ぼす評価項目について満足度が低いので、まずはこの領域にある評価項目の改善を急ぎましょう。
C:満足度:高 重要度:低
重要度は低い、つまり総合評価や次回来店へはそれほど影響しないものの、満足度は高いので、この領域にある評価項目は高い評価を維持できるようにしましょう。
D:満足度:低 重要度:低
総合評価や次回来店への重要度は低いものの、満足度は低い項目なので、B の領域に次いで改善を行いたい評価項目です。
まとめ
・データ分析に限った話ではありませんが、ものごとを見るときに、複数の視点で見るようにしましょう。今回は、単純な満足度だけではなく総合指標としての次回来店の関連を重要度として2軸で見ることによって、満足度が低く、かつ重要度が高いエリアが改善の最優先となります。
・今まで見てきた分析は、満足度を求めるのは割合、重要度を求めるのは相関係数という、いわば入門的な内容でも十分改善に役立てることが可能です。大事なポイントは、解析のために分析を行っているわけではなく、何か問題解決や意思決定、改善などを行うためにデータ分析は行うものなので、分析手法が高度な手法を使っているから、より高度な問題解決に役に立つというものではありません。
執筆者情報
末吉正成(すえよし・まさなり)
株式会社メディアチャンネル 代表取締役。www.media-ch.com
道具としてのビジネス統計を用いて大学や自治体のWEBコンサルテーションを行う。
著書に『EXCELビジネス統計分析(ビジテク)』(翔泳社)、『EXCELマーケティングリサーチ&データ分析』(翔泳社刊)、『Excelでかんたん統計分析』(オーム社刊)、『事例で学ぶテキストマイニング』(共立出版刊)、『Excelでかんたんデータマイニング』(同友館刊)、『仕事で使える統計解析』(成美堂出版刊)、『見せる統計グラフ』(秀和システム刊)他がある。
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